平成12年度熊本大学卒業式 式辞

熊本大学長 崎元達郎 皆さん、ご卒業並びに学士、修士、それに博士となられましたことおめでとうございます。春らしい好天にも恵まれ、本日ここに、九州看護福祉大学長小林拓郎先生をはじめ長年にわたり熊本大学にて教育と研究にご貢献下さいました名誉教授諸先生をお迎えし、部局長と共に平成12年度の卒業式と学位授与式を合わせ行うことができますことは、熊本大学にとりまして年毎の最も大切なこととして誇らしく且つ喜ばしいことであります。

医療技術短期大学部にあっては3カ年、各学部にあっては4カ年あるい6カ年、また、大学院に進まれた方々はさらに幾年間かを本学にて修業され、晴れて本日を迎えられましたこと、申すまでもなく皆さん自身の努力の賜物であり深く敬服いたします。しかし、皆さんが今日ありますのは、ご家族はもとより先生方や先輩諸兄姉の温かなご助言やご指導あるいはまた、学友たちの協力と励ましなど、多くの方々の形となって現れることのないご助力が皆さんの努力を支えてきたことを、本日を機に改めて肝に銘じていただきたく思います。

社会人としての自覚と責任感を身につけた学士として現実の社会に羽ばたかれる人、研鑽をさらに深めるべく大学院に進まれる人、大学院にて専門家としての知力と学識を修められ社会に貢献するため、修士あるいは博士となられた人、また、それぞれに技術を身につけこれからの医療を支えようとする人、加えて、母国の期待を担い本学での留学を立派に全うされた留学生諸君、総勢2,604名の皆さん一人ひとりに、熊本大学を代表し、皆さんの前途洋々たる船出を心からお祝い申し上げます。と同時に、今日まで皆さんをこよなくお支え下さいましたご家族をはじめ、諸先生、諸先輩、教職員各位に、敬意を込めて深く感謝を申し上げます。

さて、皆さんは、既に約束されたことではありますが、21世紀最初の卒業生として本学を巣立つこととなりました。それぞれに格別の感慨を思い巡らしておられることでありましょう。皆さんにとって20世紀とはいかなる世紀であったのでしょうか。そして21世紀に何を期待し、何を為そうと考えておられましょうか。

皆さんが20世紀を実感できましたのは80年代後半以降の筈であります。我が国の異常なまでの経済発展とそれに伴う国際的地位の上昇、それに次ぐ経済破綻と国際的信用度の低下といつ果てることなき政情不安、加えて、地球の温暖化に象徴される回復不能なまでの地球環境の悪化、先進諸国における急速な社会の高齢化とそれに伴う社会的変化、交通や情報技術の進歩によって加速されつつある人類社会の国際化、それとは裏腹な民族間隔差の顕在化、それがもたらす国際紛争等々、皆さんは例外なく、このような20世紀末葉のまさに激動の波に翻弄されつつ成人したと言っても決して過言ではありません。

一方、皆さんの本学における勉学環境もまた必ずしも恵まれたものではなかったであろうと思慮したします。社会の変化や経済の凋落も大きな要因と考えられますが、大学ことに国立大学の在り方が厳しく問われました。その結果、国の行財政改革の一環として国立大学の設置形態の変革が行政府の施策として取り上げられることとなり、国立大学は変革を強く迫られました。本学も決して例外ではなく、より良く変わるための努力を重ねて参りました。このような状況が大学を不安定なものとし、教育や研究に少なからざる影響を及ぼしたことは否定できません。皆さんは図らずともその渦中に身を置くこととなったのでありました。

しかし、皆さんは、幼少年期、青年期での自らの体験を通じ、人間の在り方、日本の行く末、人類の未来等々について思索を強いられたでありましょう。 そしてそのことが、皆さんの批判力を醸成すると共に、人格的強度を付与したに相違あるまいと、私は確信いたしております。

今世紀初頭に社会人となる皆さんは好むと好まざるとに関わりなく、21世紀人類社会の最も中核的な担い手であります、克服を迫られている数多くの問題は、確かに、いずれも容易に克服し得るものではありません。とは言え、それから逃避ができるものでもありません。

幾千年もの人類の足跡を顧みますと、その発展の過程でレベルや事象は異なってはいますが、人類は幾度となく現在私たちが直面しているのと基本的には等価の危機に幾度も遭遇しました。そのような危機は人類の精神を著しく荒廃させたでありましょうが、私たちの先祖はその度毎に、“人類の尊厳と人としての心”を取り戻し、敢断に危機を克服してきたのだと、私は思うのであります。

先刻、列挙いたしました現代の人類が抱えている多くの課題には、皆さんもつとに思いを寄せ胸を痛めておられることと推察します。これら、身辺、社会、あるいは広く地球規模で起こっている事象を悲観的に捉えないで下さい。例えば、環境問題一つを取り上げてみましても、確かに手の施しようのない程ですが、それに絶望すれば益々悪化させること必至です。しかし、私たち一人ひとりが我が事として常日頃意を払えば、必ず克服できましょう。つまり、悲観的になれば、問題に積極的に立ち向かう業を見出すことですら出来なくなり絶望の淵に追い落とされるであろうと思うのであります。

再び強調いたしますが、皆さんはまぎれもなく21世紀の人類社会の担い手であり繋引車なのです。前途ある皆さんが、夢と希望を失うことなく、常に問題を深く意識し、心豊かに活躍されることが、何にも増してこの国をより良く導き、強いては人類に至福をもたらすことになると思うのであります。また、本学に学んだ皆さんが活躍下されば下さるほど、後に続く後輩たちにかけがえのない糧と勇気を与えるでありましょう。

本日只今から、決して過去の過誤を悔やみ追うことなく、未来に夢と希望を託し、日々明るく大らかに、且つ健康に、若人の気概を末永く持続して活躍下さることを切に願い、皆さんを送る言葉といたします。


熊本大学長 江口 吾朗



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