PM2.5の構成成分であるブラックカーボンが 急性心筋梗塞のリスクを高める可能性 ~全国7都道府県・4万件超を対象とした疫学研究の成果~
桜十字グループ、東邦大学、国立環境研究所、熊本大学、日本循環器学会の合同研究チームは、日本循環器学会が保有する大規模臨床データを基盤に、大気中の微小粒子状物質(PM2.5)およびその構成成分の日単位濃度変動が急性心筋梗塞に及ぼす影響を検討しました。
PM2.5のデータには、2017年に環境省が大気汚染物質モニタリング体制を強化する一環として全国10地点に設置した連続自動測定装置による測定結果を用いています。
その解析の結果、総PM2.5濃度の上昇に伴い急性心筋梗塞による入院件数が有意に増加することを明らかにしました。さらに、PM2.5の主要構成成分の一つであるブラックカーボン(黒色炭素)についても同様の関連が認められ、心筋梗塞発症の新たな環境リスク因子となる可能性を初めて示しました。
本研究成果は、Springer Nature社が発行する国際学術誌『Communications Medicine』に2025年8月に受理され、9月4日(木)18時00分(日本時間)にオンライン掲載されました。今後は、ブラックカーボンの発生源やPM2.5構成成分ごとの健康影響メカニズムの解明を進めるとともに、より効果的な大気汚染対策の立案に資する研究が期待されます。
<考察と今後の展望>
本研究では、全国7都道府県の生活環境下におけるPM2.5測定データと、日本循環器学会の大規模臨床データを用いて解析を行い、入院当日からその前日にかけてPM2.5濃度が上昇すると急性心筋梗塞のリスクが増加することを明らかにしました。成分別の影響を全国規模で検証した研究は世界的にもまれであり、特にPM2.5の主要構成成分のひとつであるブラックカーボンが急性心筋梗塞と有意に関連することを示したのは国内初の成果です。
ブラックカーボンが心筋梗塞に関与する可能性のある仕組みとして、肺での炎症や酸化ストレスの誘発、血液中への微粒子移行の促進、腸内細菌叢(さいきんそう:細菌の集合体)の乱れ、自律神経や副腎機能の不均衡など、複数の経路が推測されています。
今回の結果では、総PM2.5濃度とブラックカーボンとの相関は弱いことが示されました。これは、ブラックカーボンの一部はPM2.5に含まれる他の成分と同じ発生源に由来する一方で、別の発生源からも放出されている可能性を示唆します。さらに、ブラックカーボンのPM2.5に占める割合は小さいにもかかわらず、急性心筋梗塞との関連が認められたことは、総PM2.5濃度以上にブラックカーボンへ注目すべきであることを示しています。今後は、その発生源の特定が効果的な対策に直結すると考えられます。
これまで欧米を中心にPM2.5と心筋梗塞との関連が報告されてきましたが、本研究は日本全国のデータを用い、発症時点を明確に特定できる症例を対象とした点で独自性があります。さらに、ブラックカーボンに焦点を当てた解析は世界的にも極めて先進的な試みです。今回の成果は、欧米で蓄積されつつある知見を日本で裏付けるとともに、ブラックカーボンが心筋梗塞リスク増大に関与する可能性を初めて示したものであり、国内外の環境保健政策に大きな示唆を与えるものです。
今後もPM2.5の成分別に健康影響を検証し、得られた知見を政策立案や公衆衛生対策の強化に活かしていく必要があります。
<発表論文>
【タイトル】Components of particulate matter as potential risk factors for acute myocardial infarction
【著者】Sunao Kojima, Takehiro Michikawa, Ayako Yoshino, Kenichi Tsujita, Takanori Ikeda, Yuji Nishiwaki, Akinori Takami
【雑誌】Communications Medicine (2025年8月受理)
【DOI】10.1038/s43856-025-01095-z
【URL】https://doi.org/10.1038/s43856-025-01095-z
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