使いやすい、楽しく学べる教具を全国の盲学校へ![盲学校用教材開発サークル Soleil(ソレイユ)]

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使いやすい、楽しく学べる教具を全国の盲学校へ![盲学校用教材開発サークル Soleil(ソレイユ)]

始まりは、1台の「おしゃべり点字タイプ」

 工学部のとあるサークルを訪ねると、学生たちの生き生きとした声が行き交って、なんとも活発な空気に包まれました。ここは、「盲学校用 教材開発サークルSoleil(ソレイユ)」。工学部の技術職員と学生たちが協働で音声点字教具を開発・製作し、全国の盲学校に届ける活動をしています。「全国の眼が見えない子どもたちへ!」「学ぼう! 作ろう! 届けよう!」が合言葉。これまでに、さまざまな教具215台を全国の盲学校へ寄贈してきました。

 音声点字教具の開発の始まりは、2011年。工学部の技術専門職員である須惠耕二先生が、全国の大学の技術系職員が集まる発表会で、全盲の方のための学習機器開発に取り組む山口大学の技術系職員の発表を聞いたことがきっかけです。「大きな衝撃を受け、自分にも何かできないかと考えました。思い切って、なんのツテもなかった熊本県立盲学校に電話し、お手伝いをしたいと申し出たのが最初でした」と須惠先生。

 盲学校の授業を見学、先生方からのアドバイスなども検討し、初めて開発されたのが「おしゃべり点字タイプ」でした。点字ライターは、点字を打つ音がするだけで、正しく打てているのかどうか紙が出てくるまでわかりません。難しすぎて、子どもたちが点字そのものを嫌になりかねないという難点がありました。そこで、点字ライターと同じ指使いをすると「あ」や「い」の音が鳴る「おしゃべり点字タイプ」をつくったのです。「すごく喜んでいただいたので、そのあとは学生につくってもらうことにして参加者を募集。集まった学生たちがつくった教具3台を、その年のクリスマスプレゼントとして贈呈しました」。その後、熊本県立盲学校の先生が研究会でその教具を紹介。すると、全国の盲学校から一気に約60台の導入希望が寄せられました。

 熊本県立盲学校をはじめ、教具の贈呈先からの感謝の言葉に感激した学生たち。後輩を連れてきてスタートしたのがこのサークルです。2012年のことでした。

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しっかり予算も獲得し、開発にも注力!

 現在、サークルメンバーは工学部生を中心に、大学院や理学部生も含め29名。第一号の教具「おしゃべり点字タイプ」以外にも、実にさまざまな教具が開発・製作されています。サークル代表の池田裕貴さん(大学院自然科学教育部1年)は、「量産したものをプレゼントする予算は、熊本大学の『きらめきユースプロジェクト』※1に応募し、そこからいただいたものを使っています。今年は開発がプロジェクトの中心で、それは熊本大学工学部附属グローバルものづくりセンターが公募する支援事業から予算を得ました。そのほかに、須惠先生のもとに、私たちの活動を応援してくださる外部資金があります。これはものづくりイベントなどを開催し、製作体験をしてもらって、できあがった教具をプレゼントすることに使わせてもらっています」と話します。サークルではこの活動を「社会貢献型ものづくり」と呼んでいるそうです。今年のプロジェクトの一つである「パッチンちずる」は、全国の盲学校67校のうち50校から寄贈希望が届いています。今年度中に、67校全部に寄贈を目指して活動します。

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※1 「きらめきユースプロジェクト」: 大学のアピールや活性化につながる学生手づくりの企画に対して大学が支援を行うプロジェクト

一般企業では難しいものづくりに、大学が貢献

 しかしもちろん、開発に苦労はつきものです。「盲学校の先生たちにアイデアやアドバイスをもらいながら開発します。学部3年の時、開発した教具を、奈良県で開催された盲学校の先生方が集まる研究会で展示したんです。その時、これはすぐほしい、という意見もあれば、必要ないという意見もありました。ニーズに合わせるのがすごく難しいです」と池田さん。工学部3年の和久屋愛美さんも「自分が予想していたニーズで開発してみて、それとは違う意見が来た時がやっぱり大変です。私たちが当たり前と思っていることが、目が見えない人にはそうじゃない。相手のニーズにきっちりと合わせる開発は、自分だけで完結しないことがよくわかります。難しくて大変ですが、勉強になります」と話してくれました。

 盲学校のみで使う教具を、一般企業が開発・製作すると、どうしても金額が高くなってしまいます。「開発と製作にかかる費用さえ工面がつけば、学生は勉強になり、人に喜んでもらえる感動を知ることができるし、大学もうれしい。もちろん盲学校は助かるし、なにより盲学校の子どもたちが喜びます。お金を出してくれる企業や財団も社会貢献につながります。現在のサークルのスタイルは、みんなが喜べる形。学生の力はこのプロジェクトに不可欠であり、私は彼らの協力者。職員ですが、学生たちと対等の立場で一緒に取り組んでいます」。最後に須惠先生が話してくれました。

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  • ソレイユの活動はこちらで紹介しています。

(2018年9月5日掲載)

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総務課 広報戦略室

096-342-3269