障がいのある子どもたちも、夢を叶えられる支援をしたい

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障がいのある子どもたちも、夢を叶えられる支援をしたい

熊本大学教育学部付属の特別支援学校では、進路や就労に関する支援に力を入れています。今年度、その取組みで平成30年度熊本大学教育活動表彰グランプリ、文部科学大臣優秀教職員(組織)表彰、第12回キャリア教育優良学校文部科学大臣表彰を受賞!全国的にも注目されました! この取組みに携わっておられる附属特別支援学校の永井崇雄先生にお話を伺いました!

障がいのある子どもたちの進路・就労をサポート

健児くん(以下◆):トリプル受賞、おめでとうございます!特別支援学校のこれまでの取組みが評価されたんですね!

永井先生:ありがとうございます。熊本大学教育学部附属特別支援学校には、現在、知的障がいのある子どもたちが、小学部から高等部まで、61名が通学してきています。本校の目的は、子どもたちの支援を通じて、特別支援教育に関する研究をすること、教員養成をすること、そして、研究成果を地域に発信して地域貢献をすることです。さまざまな研究成果や支援のノウハウがあるのですが、中でも、障がいのある子どもたちの進路・就労、キャリア教育に関する取組みは、県内でも先進的にすすめてきた実績があります。平成28年度には、文部科学省の「キャリア教育就労支援等の充実事業」について研究指定を受けました。そこで、これまで行ってきた進路指導や就労支援、キャリア教育の取組みをより充実させ、地域の学校に発信することにしたんです。

◆:「就労サポートすずかけ」を作ったきっかけは?

永井先生:本校の進路指導は、地域支援を担当する部署と一緒になった「特別支援部」が行っています。地域支援担当は、県内の学校で、障がいのある子どもたちへの支援計画の立て方や支援方法などについて、ノウハウを伝えたり、ケース検討を行ったりしています。しかし、これまで進路や就労など、卒業後のことに関する相談を受けたことはありませんでした。最近では、高校に障がいのある生徒が多く入学していることもあり、就労や進路について困っている先生方も多くなってきたのではないかと考えました。そこで、地域支援と進路指導を同じ部署でやっているというメリットを活かせば、私たちのノウハウや、これまで開拓してきた就職先、インターンシップの受け入れ先などの情報を発信できるのではないかと考えたんです。気軽に相談していただけるよう、県内の先生や子どもたちに還元していくための窓口として「就労サポートすずかけ」を作りました。「私たちは、学内の支援だけでなく、卒業後の進路・就労についての相談も受けられますよ」とアピールしたんです。思った以上の相談が寄せられ、ニーズは高かったんだな、ということを改めて感じています。

特別支援・永井先生

情報発信と連携の場をつくる

◆:「就労サポートすずかけ」 では、どんなことをしているんですか?

永井先生:研修会での情報やノウハウの提供と、進路開拓、支援エリアの高校への支援が主な取組みです。

研修会では、進路・就労支援に限らず幅広く支援方法を学んだり、演習を交えて実際の対応方法を実践的に学んだりしています。先生方や地域の方が参加していただきやすいよう、夕方から開催したり、夏休みの期間を活用したりしています。おかげさまで、最近では高校の先生も多く参加していただけるようになりました。福祉施設や企業の方の参加もあり、支援機関や学校同士のつながりもできていると感じています。私たちにとっても、本校高等部に在学している生徒の小中学校時代の先生が参加されると、情報交換もできます。幅広いネットワークができて、とても得るものが多いですね。

進路開拓の分野では、就職支援コーディネーターが年間200件くらいの企業を訪問して、インターンシップ先や就職先を開拓しています。訪問時には、障がい者の特性や他社での雇用事例を紹介し、雇用管理のやり方を提案することもあります。企業から伺った内容はデータベース化し、就職先やインターンシップ先として案内できるようにしています。

支援エリアの高校にも、直接訪問して、どのように就労支援をすすめたらいいか、キャリア教育の方法などを説明しています。実際、本校からの支援により、5名の方が就職につながったという事例ができました。これまで、どうしたらいいかわからなかった部分を解決でき、各学校のキャリア教育につながってきていると思います。今後も、特別支援学校は地域の障がいのある子どもたちにとって、センター的機能が発揮できるのだということを、伝えていきたいですね。

特別支援・永井先生

社会を子どもたちにあわせてもらえるようにしたい

◆:最近は、障がい者雇用について、社会的にも興味を持つ企業が多いようですね。

永井先生:社会貢献やコンプライアンスの観点から、障がい者雇用を考えている企業は多いです。人材不足もあり、興味はあるが、どう雇用管理したらいいかわからず、一歩踏み出せない企業も多いです。そんなところには、雇用事例や必要な支援機関の案内、助成金の案内などもしています。

お互いにいい形で受け入れてもらうためには、子どもたちを受け入れる社会や環境に働きかけていくことも重要です。障がいのある子どもたちを受け入れてくださる職場を開拓するだけでなく、企業の方々と話し合いながら、子どもたちの特性に合わせるとともに、企業のメリットにもなる職場環境づくりの提案もします。例えば、ある保育園の例なのですが、保育士さんが忙しい合間にやっていた、環境整備やおやつの準備などの小さな仕事を集め、就職する子どもの仕事として作っていただきました。すると、保育士さんは園児との時間に集中できるようになり、労働環境の改善、保育の質向上につながったそうです。また、職場全体でに優しく、わかりやすく伝えようという雰囲気が生まれ、職場環境がよくなったという話もよく聞きます。

環境を変えることで、子どもたちにとっても、企業にとってもよい結果をもたらすようにするのが、特別支援教育におけるの就労支援の考え方だと思っています。

特別支援・永井先生

「卒業式はあっても、卒業のない学校」の思いを受け継いで

◆:永井先生が、特別支援学校でのキャリア教育に興味をもたれたきっかけは?

永井先生:最初の赴任校が県立熊本支援学校で、そこで特別支援学校での教育の魅力を知りました。特別支援学校では、一人対多くの子ども、ではなく、いろいろな先生たちと一緒になって、チームで支援に携わります。子どもたちも、とても素直に学んでいきます。子どもたちの中には、自分の思いをうまく伝えられない子も少なくありません。保護者や先生方と一緒に、子どもたちの気持ちを汲み取り、考え、支援につなげるのは、とても難しいのですが、やりがいもあると感じています。同時に受入側の企業や福祉サービス事業所とのつながりも必要です。いろいろなつながりを作り、子どもたちの応援団を作って卒業させるのは、とてもやりがいがあることだと思います。

私たちの支援は、子どもたちが卒業したら終わり、ではありません。以前、本校におられた先生が「卒業式はあっても、卒業のない学校」という言葉を残されました。就職後、職場に行って相談にのったり、定着まで支援したり、卒業生同士の交流会をやったりして、息の長い支援が必要だと感じています。キャリア教育は出口指導ではないんです。本人の目標に向け、子どもたちが成長していくことを大切に考えていきたいと思っています。

特別支援・永井先生

子どもたちの夢を実現できる環境を作りたい

◆:今後は、どんな取組みを考えておられますか?

永井先生:好評のセミナーは、就労だけでなく、進学にも広げていきたいと思っています。大学の支援や通信制学校の支援など、他ではあまりやらないようなテーマを見つけて、多くの人に参加していただけるようにしたいですね。教員だけでなく、地域の方にも参加していただき、お互いに勉強しあえるような機会にしたいと思います。

他の機関との連携も強めていきたいです。今、就職支援ネットワーク会議という、教育・労働・福祉が連携した取組みも行っているのですが、これを広げていきたいと思います。どんな観点で就労支援したらいいのか、など、支援の参考にするための項目をシートにまとめ、各学校で自由に使ってもらえる仕組みも考えています。

本校の教育テーマは「夢・希望からスタートする教育」です。「保育園の先生になりたい」と憧れる子どもに「その進路は難しいよ」と他の進路案内をするのではなく、どうしたらそれが実現できるかを子どもたちと一緒に考えていきたいと思っています。もちろん、実習にいったことで「自分に向いていないということがわかった」ということもあります。変化する夢や希望も丁寧に応援して、一緒に考えていきたいです。

どんな子どもでも、やりたい仕事で働き続けられるような就労支援を、県全体に、そして全国に広げていきたいですね。

(2019年3月12日掲載)

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