世界初 胎生期マウスの内耳への、ヒトiPS細胞由来細胞の移植に成功-遺伝性難聴の治療法開発につながる成果-

地域医療機能推進機構熊本総合病院、耳鼻咽喉科・頭頸部外科/中耳・内耳手術センターの蓑田涼生センター長、熊本大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科教室の竹田大樹医員らは、慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授らと共同で、ヒトiPS細胞( 注1 )由来の内耳細胞を胎生期マウスの内耳へ移植し、体内で細胞が生着したことを確認し、移植した細胞によってヒト由来の正常なタンパク質をモデルマウスの内耳に発現させることに世界で初めて成功しました。
先天性難聴( 注2 )の約半数を占める遺伝性難聴( 注3 )には、いまだ根本的な治療法が存在しません。遺伝性難聴は出生時にすでに難聴を発症していることが多く、より確実な治療効果を得るには、胎児の早いうちからの治療が最も効果があると予想されます。そこで、本研究グループでは胎生期マウスを用いて、子宮内での治療による難聴治療に焦点を絞って研究を進めてきました。
今回、研究グループでは、ヒト由来iPS細胞から内耳前駆細胞(内耳細胞の「もと」となる組織幹細胞)を作成し、正常マウスと難聴モデルマウスの胎生期の内耳に移植しました。難聴モデルは遺伝性難聴の原因遺伝子のひとつであるコネキシン30( 注4 )が欠損し、ヒトと同様に高度難聴を示したモデルマウスを用いました。すると、移植した細胞はマウスの内耳内に生着し、生着細胞の一部でコネキシン30を発現していることが示されました。つまり、欠損していたコネキシン30を細胞移植によって補うことができ、聴力を改善できる可能性が見出されたのです。
これまで技術的に困難と考えられていた胎生期内耳への細胞移植に、マウスを用いて世界で初めて成功し、正常な内耳細胞に存在するタンパクが発現されることも確認できました。この成果は遺伝性難聴に対する、胎児治療での内耳再生という新しい治療法につながるとともに、胎生期内耳をターゲットとしたさまざまな研究の発展に大きく寄与すると考えられます。
本研究成果は2018年1月31日(英国時間)『Scientific Reports』に掲載されました。

【用語解説】
(注1) ヒトiPS細胞:ヒトの組織をもとに作成された多能性幹細胞。
(注2) 先天性難聴:生まれつきの難聴。
(注3) 遺伝性難聴:遺伝子の異常を原因として生じる難聴。
(注4) コネキシン30:GJB6遺伝子によってコードされるタンパク質で、内耳内に発現しており、イオンや分子を通過させる細胞間結合を形成する。
(注5) GJB6遺伝子:先天性難聴(遺伝性難聴)の原因遺伝子のひとつであり、コネキシン30タンパク質をコードしている。
(注6) 異種:種の異なる生物種、ここではヒト由来の細胞とマウスという異なる2種類の生物間で移植を行っている。


【論文名】
Engraftment of Human Pluripotent Stem Cell-derived Progenitors in the Inner Ear of Prenatal Mice
(日本語訳:胎生期マウス内耳に対するヒト幹細胞由来前駆細胞の生着)

【DOI】
10.1038/s41598-018-20277-5

【著者】
竹田大樹、細谷誠、藤岡正人、三枝智香、佐伯翼、三輪徹、岡野栄之、蓑田涼生

【掲載雑誌】
Scientific Reports

【詳細】
プレスリリース本文 (PDF 480KB)

お問い合わせ
熊本大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科教室
医員 竹田 大樹(たけだ ひろき)
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慶應義塾大学医学部 耳鼻咽喉科学教室
助教 細谷 誠(ほそや まこと)
専任講師 藤岡 正人(ふじおか まさと)
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