不整脈で使用する抗凝固薬の種類によって 血栓形成速度が異なることが判明

熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学(辻田賢一教授)の石井正将医師、海北幸一准教授らは、不整脈の1つである「心房細動」で抗凝固薬 ※1 を服用中の患者において、血栓形成の過程を観察し、従来のワルファリンや近年普及している新規の抗凝固薬 ※2 の種類によって、血栓の形成速度が異なることを明らかにしました。
心房細動患者では、脳梗塞のリスクが高いことから抗凝固薬の服用が推奨されていますが、一方で、その副作用として出血性合併症が問題となっています。特に脳出血は、重篤な後遺症を残すことがあるため注意が必要ですが、近年普及している直接経口抗凝固薬は、従来のワルファリンに比べてこの脳出血の発症や、血腫(血管の外に出た血液の塊)の増大が少ないとされています。本研究では、新しい測定機器であるT-TAS ※3 を用いて、各抗凝固薬を内服している患者の血液を詳細に解析しました。結果、各薬剤によって血栓形成を抑え、模擬血管を血栓で閉塞させるのを防ぐ最終的な抗凝固能の程度は変わらなかったものの、T-TASのマイクロチップ内に形成される血栓を経時的に観察すると、各薬剤によって血栓形成の速度が異なることを見出しました。この血栓形成の速度の違いが、各薬剤によって脳出血の発症頻度や血腫量に差が生じる要因となっている可能性を示唆しています。
本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて、科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版にUK時間の2017年8月7日(月)10:00【日本時間の8月7日(月)18:00】に掲載されました。


※1 抗凝固薬
血栓と呼ばれる血液の塊が引き起こす脳梗塞などの治療・予防薬の総称です。血液を固まりにくくし、血栓形成を抑えます。一方で、出血しやすい、出血が止まりにくいといった副作用があります。

※2 新規の抗凝固薬
近年普及している直接経口抗凝固薬のことで、従来のワルファリン製剤と比較してより選択的に凝固因子を抑制することができます。そのため、十分な抗凝固作用を持ちながら、出血を減らすことがわかっています。直接経口抗凝固薬には、ダビガトラン、リバロキサバン、アピキサバン、エドキサバンがあり、脳梗塞の治療・予防に広く使われています。

※3 血栓形成能解析システム(Total Thrombus-Formation Analysis System: T-TAS 藤森工業)
血管を模したマイクロチップと採血した血液を送り出すポンプ、圧力センサー、光学顕微鏡(マイクロスコープ)を備えた血栓の形成過程をモニタリングする装置。解析に必要な血液が500μLと少量で済み、採血した血液は測定までに煩雑な前処置が不要で簡単に測定できるのが特長です。マイクロチップ内に流れる血液が、障害血管モデルに血栓を形成していく過程を観察することができ、血栓ができる速さや量を定量的に評価することができます。マイクロチップには2種類あり、凝固因子の活性反応を中心に測定するARチップと、血小板の活性を中心に測定するPLチップがあります。


【論文名】
Direct Oral Anticoagulants Form Thrombus Different From Warfarin in a Microchip Flow Chamber System

【著者名(*責任著者)】
Masanobu Ishii, Koichi Kaikita*, Miwa Ito, Daisuke Sueta, Yuichiro Arima, Seiji Takashio, Yasuhiro Izumiya, Eiichiro Yamamoto, Megumi Yamamuro, Sunao Kojima, Seiji Hokimoto, Hiroshige Yamabe, Hisao Ogawa, Kenichi Tsujita.

【掲載雑誌】
Scientific Reports

【詳細】 プレスリリース本文 (PDF 391KB)

お問い合わせ
熊本大学大学院生命科学研究部
循環器内科学
担当:
教授  辻田賢一(つじたけんいち)
准教授 海北幸一(かいきたこういち)
電話: 096-373-5175
e-mail: kaikitak※kumamoto-u.ac.jp
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