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WEBマガジン「KUMADAI NOW」声なき声に耳を澄ませ、地域の課題を解決へ

紛争を解決する“合意形成”

◆:先生は、地域の課題や紛争の解決について研究を進めておられるそうですね。

石田:研究の柱は“合意形成”という分野ですが、現代社会のさまざまな場面で起こる“対立”を訴訟などの法的措置を介せずに解決を図る「紛争外での紛争解決」は大きな研究テーマの一つです。例えば、地域で何か問題が起きたとすると、従来であれば行政が間に入って解決を試みたものですが、人々のニーズや価値観が多様化し、複雑な課題の解決に取り組んでいく中で、さまざまな利害関係者や地域住民のニーズや意見を把握し、意見の反映が求められている時代では、行政だけではその正当性を維持することが難しくなっています。

 そこで地域の方々の意見をできるだけ反映させ、当事者同士に納得してもらう話し合いの場をどのように作っていくか。またそれを支援するためには、どのような条件が必要なのか研究を進めています。

 以前、熊本市のまちづくりや景観保全等の委員をさせていただいた時に、市民が発言する場が少ないことに気付きました。課題に対する意識がとても高く、地域の問題に豊富な知識を有している一般の方がおられても、委員会などの場に呼ばれないため意見を反映させることができません。そういった方々の意見に耳を傾ける場を設けることができないかと考えたんです。

◆: 現在、行政など単一の機関だけでは課題を解決できなくなった背景には、どのような変化があるんですか?

石田:社会が成熟して、多様な課題やニーズが生まれてきたことやインターネットなど技術の進化により、一般の人でも高度な知識を得て、さまざまな意見を把握できるようになったことが挙げられます。しかし、そこで生じる対立する意見や利害を調整し、コーディネートできる人材が不足している状態。そこで大学などが地域課題の解決を支援する中間的役割を果たす仕組みづくりを実践していきたいと考えているんです。

人と人をつないで課題解決へ

◆: アメリカでは、地域の課題などを解決するために当事者同士をつなぐコーディネート機関があるそうですね。

石田: 私が留学時に勉強させていただいたカリフォルニア州立大学サクラメント校には、公共的な紛争を解決し、地域内の様々なアクター間の合意形成を支援する「Center for Collaborative Policy(CCP)」というセンターがあり、地下水汚染や河川開発などの環境問題を中心にさまざまな事例で研究や実践を進めています。

 州の人口増加にともなう河川開発を例に挙げてみると、経済的な発展を求める河川開発推進派と河川に棲む絶滅危惧種を守ろうとする反対派の対立を招いていました。表面上は「賛成」と「反対」で相反するために、それ以前は行動を共にすることもなかった当事者同士でしたが、センターが間に立って双方の話し合いの場を設け、相互理解の場を繰り返し支援したことで、「人口増加に対応しつつ、絶滅危惧種にダメージを与えない河川開発はできないか」という双方の意見をすり合わせた対策案を協議できるようになりました。

 ここで大切になるのは、単に「賛成」「反対」という表に出てくる当事者の立場だけではなく、その背後にある利害や理由に着目するということです。相手方のニーズを早い段階で適切に把握しておくことで、紛争を未然に予防あるいは予測し、より賢明な解決につながる可能性があります。

 最近、市民参加が重要視されていますが、いかなる場合でも市民を巻き込んで当事者同士の話し合いにより意思決定をするのがいいとは限りません。市民参加には相応のエネルギーや時間がかかります。時として、例えば、大災害直後など緊急性が高い場合には、従来のように行政などリーダーシップを発揮できるところが意思決定をしたほうが良いケースもあるかもしれません。ですので、どのような場合にどのような市民参加や合意形成の手法が効率的で効果的な解決に結びつくのか、今後も比較検討を重ねていきたいと思っています。

◆:例えば熊本ではどのような事例が、コーディネートの対象になるんですか?

石田:熊本は公共的な課題が多い地域だと思っています。例えば、水俣病や川辺川ダムの問題、そして最近だと熊本市内の桜町・花畑地区周辺の再開発も今後どのようなまちづくりを進めていくかという点で大きな議論になっていくことが予想されます。水俣病などは未だ解決できていない困難な問題ですが、これまで学んだことを生かして将来的にはそういった大きな課題の解決にも取り組めるような枠組みを考えられるとよいですね。

人材や研究の社会還元を目指して

◆:現在、地域の課題同様に、さまざまな場面で活躍できるリーダーの育成が求められる時代ですね。

石田:社会のそういう声に応え、大学院先導機構では博士課程教育リーディングプログラム「グローカルな健康生命科学パイオニア養成プログラムHIGO(以下、HIGOプログラム)」という大学院プログラムに関わっています。医・薬学系の大学院生を対象に、大学院で専門的知識だけを学ぶのではなく、行政や産業界の協力の下で海外インターンシップなども取り入れ、多角的に物事を考え問題の本質を捉えると同時に、アジアなど海外を舞台にしても活躍できる人材の育成に取り組んでいます。“HIGOプログラム”を通して、将来は保健・医療・薬事行政などに携わる健康生命科学分野のリーダーを育成し、グローカル(グローバル+ローカル)に社会を活性化することが目標です。

◆:先生ご自身が学生のころから大切にしている言葉などがあれば聞かせてください。

石田:大学院生時代には、継続することや挑戦することの大切さ、“困っている人の顔が見える研究をすること”。そして“弱者の声なき声をどうやって拾い上げて課題を解決していくか”などを学びました。

 最近では、学生たちと一緒に「黒髪地区のゴミ問題」に取り組んでいます。以前から地元では日常的なゴミの出し方や年度末に出る大量の引っ越しゴミなどが問題となっていたのですが、学生たちの耳に届きませんでした。そこで先日、熊本市役所や自治会の皆さんにご協力をいただきながら、学生たちと一緒に現場を歩き、現状を調査しました。

 先日、実際に集まってみて分かったことは、これまで学生、行政職員、自治会の方々が一堂に会して問題を共有し、課題解決を考える場がほとんど無かったということです。この取り組みは、まだ始まったばかりですが、今後、ゴミ減量の活動に協力的な学生団体や留学生などの意見も抽出して改善に努め、さらに普及させていくことができればと考えています。

 “あなたの問題は私の問題でもある”という意識を持つだけではなく、“私たちの問題”として共有し、考える意識を持つ。そのプロセスが非常に重要です。どんな場面でも、みんなが安心して話をして課題を解決できるような場を作ること。今後はアジアの新興国やヨーロッパなどの事例も研究して、社会に還元していくことが私の夢ですね。「日本で役立つことは世界で役立つ」という意識を持ってやっていきたいと思います。

 

(2014年7月7日掲載)

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