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WEBマガジン「KUMADAI NOW」田中正造に学び、“真の文明”を築くために

WEBマガジン熊大なう。

インタビュー担当の健児くん!

文学部歴史学科世界システム史学コース 小松祐教授

歴史は、強者の視点で描かれている

何らかの形で自分を表現する仕事に就きたいと研究者の道を選んだ。健児くん(以下:◆):先生が、日本近代思想史を専門分野に選んだきっかけとは何ですか?
小松:大学に入学したばかりの頃は古代史に興味があって、邪馬台国の研究をしたいと思っていたんですよ。専門課程へ進んだときに出会ったのが“民衆思想史の三羽ガラス”と称された鹿野政直先生。自分の論文をベースに講義する教授が多い中で、学生と一緒になって研究を進めていく鹿野先生の講義はおもしろかったですね。そこで女性史や沖縄の歴史など、抑圧された「弱者」の姿に初めて向き合うことになるのですが、“歴史は強者の視点から書き残されている、だから「された側」の視点が重要である”ことを知りました。それは日本近代思想史との衝撃的な出合いでしたね。
◆:支配者や権力者などの強者側の歴史に対して、「弱者」から見た史実はとても辛く苦しいものでは?
小松:たとえば東日本大震災は、自然災害の“被災者”に加えて福島第一原子力発電所の事故による“被害者”という「弱者」を生み出しました。人間は近代文明という名の下に、多くの「いのち」を犠牲にしてきたんですよ。今から約100年前に、田中正造は、「真の文明は 山を荒らさず 川を荒らさず 村を破らず 人を殺さざるべし」という言葉を残しています。今こそ私たちは、田中正造の言葉を真摯に受け止めなければなりません。明治以降、私たち日本人は、山を荒らし、川を荒らし、村を破り、人を殺してしまうような文明を築いてきたことに気付き、新しい文明を構想することが大切なんです。

人間は、何度同じことを繰り返すのか?

今に残る足尾銅山一体の風景。◆:田中正造ってどういう人なのですか?
小松:思想家であり、政治家として衆議院議員選挙に6期連続で当選し、“選挙の神様”と呼ばれたほどです。足尾銅山鉱毒事件(*)を告発し、被害者救済に一生を捧げた人物でした。
◆:鉱毒とは、鉱山から流出した毒素のことですね。地下水などにも影響を与えるのでは?
小松:水は万物の生命線ですから、その影響は計りしれません。福島第一原子力発電所の事故も川や海の水の汚染が大きな問題となっていますし、熊本には工場廃液による海洋汚染を引き起こしたチッソ水俣病事件という歴史があります。しかし、三者の共通点は水質汚染だけではないんですよ。足尾銅山鉱毒事件では「今後、被害の原因が足尾銅山にあることがわかったとしても一切不服を申し立てません」という“永久示談契約”を結ばされたり、水俣病問題でも同じような内容の「見舞金契約」を結ばされたりしました。東京電力も被害者に同じような契約を押し付けようとしたんですよ。
◆:強者と「弱者」の構図は、現代も何も変わらないということですね。
小松:そうですね、何度同じことを繰り返すのか?歴史は何のためにあるのか?と、愕然としました。「俺は今まで何をしてきたんだろう!?」と思いながら、“3.11”後の日本社会のありようを考えてみると、脱原発運動や被災者支援についても、田中正造の思想の中にその答えがあるんです。田中正造は、自然との共生を願い、「自然公共の大益」という言葉も残しています。自然がもたらす恵みは、誰もが得ることができる公共の利益なので、それを無駄にしてはならないということですね。太陽光はあらゆる生物を育み、エネルギーをも供給できる。現在の言葉にすればグリーン・イノベーションの時代だと、100年も前に田中正造は、語っているんですよ。

*足尾銅山鉱毒事件・・・足尾銅山(栃木県上都賀郡)から流出する鉱毒が、渡良瀬川沿岸の農漁業に大きな被害を与えた。近代日本の公害の原点といわれている。

学問は、人を救うためにある

小松研究室で「歴史公園 鞠知城」へ旅行したときの1枚。◆:“真の文明”とは、自然と共存しながら、誰もが幸せに暮らすことが大前提ですね。
小松:大学で1年生に向けた「21世紀市民学入門」という授業のコーディネーターをしていますが、学生の皆さんには、自分のことだけでなく人のことも考えながら、“公共善”の実現を意識した“21世紀市民”になってほしいですね。また、自分が将来やりたいことをしっかり考えて、実現するために進んでいってほしい。最近、私はよく考えるんですよ、「天から与えられた自分の使命はなんだろう?」って。一つは、田中正造の思想を世界の人々に広く知ってもらうこと。もう一つは、水俣でがんばっている胎児性患者さんたちのことを発信していくことではないかと考えています。生まれながらに重い十字架を背負わされて、運命に翻弄されてきた人々には、与えられた「いのち」を生きぬく強さがあるんですよ。水俣には希望がある。胎児性患者の皆さんは、“真の文明”を築くフロントランナーです。もっともっと多くの人に“水俣学”(*)を伝え、同じようにハンセン病患者の皆さんのことも広く伝えて行きたいですね。足尾鉱毒や水俣病、ハンセン病などの問題は、どれもまだ終わっていない。問題は今も続いているんです。田中正造は「学問は人を救うためにある」と言っています。私もその言葉を胸に、研究を続けて行きたいですね。
◆:僕も誰かの力になれるような“21世紀市民”を目指します。ありがとうございました。

*水俣学・・・水俣病研究の第一人者・(故)原田正純さんにより提唱(開講)された学問(講義)で、現場(被害者)に学びながら公害・水俣病問題と地域社会の未来を構想する総合的研究。

(2013年3月6日掲載)

 

 

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