現在位置: ホーム 大学情報 広報 広報誌 WEBマガジン「KUMADAI NOW(熊大なう。)」 熊大ラボ ~knock on the laboratory's door~ WEBマガジン「KUMADAI NOW」「血管肉腫」の診断・治療法確率を目指す

WEBマガジン「KUMADAI NOW」「血管肉腫」の診断・治療法確率を目指す

ダイナミックな変異「融合遺伝子」

健児くん(以下◆):研究されている血管肉腫は皮膚ガンの一種なんですね。
神人:皮膚ガンには様々な種類があります。血管肉腫も皮膚ガンの一つで、皮膚の血管の細胞から発生する、高齢の方の頭にできやすいガンです。シミや湿疹のような皮膚疾患と誤解されやすいのに進行が早く、リンパ節などに転移しやすいため、予後が悪いガンの一つとされています。治療法はほかのガンと同じく手術、放射線治療、化学療法の3つですが、高齢の方ほど副作用が大きな課題になっています。
◆:原因は何なのでしょうか。
神人:紫外線やぶつけた外傷などが原因といわれていますが、それで必ずしも血管肉腫になるわけではありません。ガン発生までの間になんらかのミッシングリングがあるはず。それが融合遺伝子ではないかと考えて解析を続けてきました。
 私たちはみんなガン遺伝子を持っています。その遺伝子の変異が起こるとガンを引き起こします。変異には、遺伝子の塩基が入れ替わる点変異や、塩基がなくなってしまう欠失変異があります。遺伝子の乱れを修復できているうちはいいのですが、修復できないとガンを引き起こします。そして、点変異や欠失変異などのレベルを超えたもっとダイナミックな変異、遺伝子の集合体が別の集合体に異常に挿入されてしまった状態が融合遺伝子です。今回私たちは、血管肉腫の原因となる2つの異なる遺伝子・NUP160とSLC43A3の融合遺伝子を北里大学との共同研究で突き止めました。

皮膚科患者数日本一。熊大だからこその研究

◆:これまでにはご苦労も多かったのでは。
神人:融合遺伝子は、白血病・悪性リンパ腫を含むいくつかのガンで発見されています。血管肉腫の原因もそうではないかと考えても、融合遺伝子は漫然と探して見つかるものではありません。トランスクリプトーム解析という、すべての遺伝子から転写されるRNAの塩基配列を一度に解読する手法を用いて、初めて発見することができました。
 今回、この融合遺伝子は、患者さん25人のうち9人に見られました。3割を超える頻度で見つかったのは、ガンの遺伝子異常としては多い数字です。ところが、見つかったからといって、この融合遺伝子に意味があるのかはまだ分かりません。そこで、チームの下園さんが中心になってやってくれたのが免疫不全マウスを使った実験です。この融合遺伝子を細胞に導入してマウスの皮膚に注射するとガンが発生し、融合遺伝子をガン細胞から除去するとその数が減る。これで、この融合遺伝子が原因遺伝子と特定できたわけです。しかしこの遺伝子はとても大きく、細胞の中に入れるのにはかなりの技術が必要。結果が出せるまでに2年がかかりました。
◆:先生は、なぜこのご研究を始められたのですか。
神人:今回の論文の最終著者である尹(いん)浩信教授は、私が東京大学にいた頃の指導教官なんです。その時は膠原病の一つである強皮症の原因であるコラーゲンの異常を研究していました。米国に留学した時、コラーゲンの研究には許可が下りず、血管腫の研究に着手。2005年に尹教授が熊大に赴任され、私も帰国後、2008年に熊大に来ました。実は熊本大学附属病院の皮膚科は、入院患者数が日本一なんです。それだけみんながアクティブで臨床に力を入れているということ。そしてここで、米国で取り組んだ血管腫の研究が血管肉腫の研究につながっていきました。多くの皮膚疾患の中で最も難しいと思ったのが血管肉腫。なんとか手がかりを見つけ、診断と治療法を確立したいとの思いからでした。

臨床医を目指す人も、一度は研究に携わって

◆:そこまで情熱を傾けるのはなぜですか。
神人:医学研究は患者さんとダイレクトに接する研究なので、今何が医学の世界で問題なのか、患者さんのニーズは何なのかを把握しやすいという強みがあります。普段多くの患者さんと接し、少しでも診断法と治療法を確立していきたい、治せる皮膚病を増やしたいと感じます。「何とかしてあげないと」と、肌でわかるんです。また、ベッドサイドで手一杯という診療科もある中で、皮膚科は臨床と研究を両立しやすいんです。患者さんを見ながら、研究に取り組む時間が取りやすい。だからこそ、皮膚科はがんばらないといけないとも思います。
 これから医師を目指す人には、臨床だけでなく研究にもぜひ携わってほしいと思います。今は、新薬がどんどん開発されて、それに研究がダイレクトにかかわっている時代です。研究に携わったことによって臨床にもしっかりと取り組める。医師としての人生の何年かを研究に費やしても損はありません。
◆:今後の展望は。
神人:まずは、今回の融合遺伝子の発見を通し、血管肉腫をより早く発見する診断法を確立させたいですね。融合遺伝子の機能を抑える薬の開発も期待できると思います。そのほか、この融合遺伝子が見つからなかった患者さんには何があるのか。それも調べないといけないので、もっと全国的に患者さんを見ていく必要があります。そして実は血管肉腫は犬にも多い、命にかかわる病気です。ほかの動物の血管肉腫も調べていきたいと考えています。
 
(2016年1月19日掲載)

 
 
お問い合わせ
マーケティング推進部広報戦略ユニット
096-342-3122

 

タグ:
ナビゲーション
 
  • Copyright©KumamotoUniversity